父の話。

雑音生活

父の話。

わたしにも親がいるから命があるわけだが、
わたしは、家族というものとは縁が深くない。

どこにでもあるだろう、あまり良くない家庭環境で育ってはいる。

家庭環境が良くないってケースはほんとにたくさんあるだろうと思うし、
ケースもたくさん考えられると思う。
変に誤解されたくないのでひとつだけ言うとするなら、
父はいるけど、家にはほとんど居なくて、
たまーに居るから、あ、今日は居るんだね、どうしたの珍しいねってのが天野家だった。

その父親が、数年前に癌になった。

病院にかけつけた時には、時すでに遅しで、
肺腺癌ステージ4、多臓器に転移。
中でも、脳への転移が酷く、認知症のような症状も伴っていた。
余命は3ヶ月あるかないか。

家にあんまり居た記憶のない父親ではあったけど、
わたしが可愛がられた事だけは確かだ。

だから、父親の人生の最後に、一緒に暮らしてあげる事にした。

主治医からは、ステージ4の癌は、抗癌剤以外打つ手がないと説明された。
正しくは、放射線治療が出来るには出来るんだけど、
余命3ヶ月では、放射線治療し終わらないし、体力が持たないかもしれないと言われた。

主治医はさらにこう言った。
脳の血管には、糖分以外の有害な物質を遮断する防衛機能があるので、
抗癌剤治療をしたとしても、脳転移には効かない可能性が極めて高い、と。

わたしは、末期癌の人に抗癌剤を投与する事自体には本来反対だ。
抗癌剤というのは、活性化されている細胞を破壊する劇薬、と言い換えて差し支えないと個人的には思っている。
だから皮膚や毛髪、造血幹細胞なんかの、毎日毎日一生懸命働いている器官がやられてしまう。
そのついでに、活性化している癌細胞も叩くかもね、という感じなのだ。

活性化している他の器官にダメージを食らっても、完治するならいい。
完治する可能性があるなら、むしろやるべき。
でも、絶対に治る事のない人間の残り少ない時間を、抗癌剤治療に費やすのはどうか、というのがわたしの考え。

自分だったら、対症療法のみを選ぶ。

でも、抗癌剤しか治療法がないならやってあげたいという母の強い気持ちを汲んで、抗癌剤治療をしぶしぶ了解する事にした。

ちょうど父の抗癌剤治療がはじまる頃に、わたしは父と暮らし始めた。

抗癌剤を2クール終えたら、
父の癌は、このまま治るんじゃないかってぐらい綺麗になった。
脳に転移したものまでほとんど綺麗になった。
これには、主治医もびっくりだったようだ。

実際に、認知症のようだった父が、
治療をはじめて物言いがはっきりしてきた時期があったのも覚えている。

その時に、
楽しい気持ちが自己免疫力を上げるってのが、頭を過ったんです。
わたしと暮らす生活、父は楽しかったんじゃなかろうか。
そうであったなら、本望だ。

父は亡くなったけど、
余命3ヶ月だったところを8ヶ月生きた。

赤が認識できない色弱な父の、学生の頃の絵。


前も言ったけど、
日々こんなにストレスフルなのに、楽しい事をしてはいけないような風潮になってもう長いけど、
それぞれ出来る範囲で楽しもうって、わたしは思う。

明日どうなるかわからないんだもの、めいいっぱい気をつけながら、1日1日出来る限り楽しく過ごそうや。そしてその先で会おうね。

楽しい気持ちは、免疫力に繋がるって、わたしは信じてる。

ちなみに、父の一周忌付近に突然現れた野良猫が麦さん。
わたしがこの先人間と暮らしたり、育てたりする事はないんだろうなと諦めて、
見合い相手として猫を連れてきたんじゃないのかなって、ちょっと思ってる。

Back To Top
error: